過労死防止シンポジウムに参加

20161112%e9%81%8e%e5%8a%b4%e6%ad%bb%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9dふれあい健康館で開催された「過労死等防止対策推進シンポジウム」に参加しました。

厚生労働省が、過労死等防止啓発月間の11月を中心に全国で開催しているシンポジウムですが、参加して、あらためて「人間らしく働き、暮らすことができる当たり前の社会」をつくる政治変革が求められていることを強く実感しました。

 

シンポジウムでは、息子さんを過労死で亡くされた西垣さん、過労死防止全国センター事務局長の岩城弁護士、名古屋大学客員研究員の三浦直子弁護士からの講演と徳島労働局の国重監察監督官からの報告がありました。

 

システムエンジニア(SE)だった息子さんを過労死で亡くされた西垣さんは、二度と過労死を繰り返させないと、過労死遺族でつくる団体の一員として過労死等防止対策推進法制定に尽力されました。
息子さんの職場の過酷な労働実態を知り、運動を起こし、法律はできたのに、無くならない過労死に、さらに実効性のある対策を求めて運動を広げておられます。
自慢の一人息子を育て上げ、「老後は一人息子と、教師時代の教え子たちと静かに送るつもりだった」と悲しみをこらえて淡々と語る西垣さんに、会場はシーンと静まりかえりました。

一日平均12時間近くの労働時間、月150時間を超える時間外労働。納期がせまると37時間もの長時間連続勤務もあったという、驚くような過酷な勤務がSEの職場では当たり前になっている、職場のほとんどの同僚が鬱状態で薬を飲みながら勤務を続けているという話は、想像を超えるものでした。
最近も、電通という大企業で長時間過酷労働で24歳の女性社員が過労自死するという事件が起こりました。

 

私も看護師として働いていた頃、長時間過密労働による「燃え尽き症候群」で職場を去る若い看護師が後を絶たないと問題になった時代があり、そのうち、若い医師や看護師の過労死が問題になり出しと、週休2日制が普及し、休日が増えたはずなのに、ますます過酷になる医療現場を何とかしたいと労働組合運動に奔走した日々を振り返りながら、今は、もっと深刻な事態なんだと思いました。

岩城弁護士や三浦弁護士のお話のなかで、労働者1人当たりの年間労働時間は統計上は、徐々に減少しているが、これはパート労働者が増加しているからで、正社員は2000時間前後で高止まりしていること、統計に現れないサービス残業(不払い残業)が蔓延している問題など、現代の労働問題が明確に示されました。

岩城弁護士も、三浦弁護士も、安倍政権が導入を狙う「高度プロフェッショナル」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)は過労死を促進する危険性が大きいと指摘していることは重要です。

特に、三浦弁護士が、長時間働かないと生活できない状況を変えなくてはいけない、「8時間労働により、生活できる賃金を!最低賃金の引き上げ、均等待遇の原則の実現」が必要、現状を変えるために「声をあげよう!つながっていこう!広がっていこう!」「法律も政治も制度も人々の意識も変えていける」と米国の最賃引き上げの運動や大統領選挙の話も引き合いに力強く訴えられたことは感動的でした。

 

 

徳島労働局の国重監察監督官の報告は、全国的なもので、徳島県の実態の報告がなかったことは残念でしたが、県内2万社を超える事業所があるのに、県内の労働監督官は、たった12名の配置だそうです。「重点を絞った監督に努めている」と言われましたが、「担当企業全部を回るのに10年はかかる」というくらいのひどい状況で、これではとても実効性のある指導監督はできません。以前、労働監督官の物語「ダンダリン」がTVで放映されたときは、労働監督官を希望する若者が増えたそうですが、全国で2941人配置されたのがピークで、年々減らされているそうです。

 

「今の若い人は、仕事が大変で追い詰められても自分から『辞められる』と思っていない。職場の上司の『許可』が必要だと思っている。上司から『辞めるなら責任を取れ』と言われて辞めることをあきらめてしまう」という話には驚きました。
また、困ったときの相談相手が同僚や家族で、「労働組合」や「労働局」「弁護士」が選択肢に入っていないという話もショックでした。
労働組合への加入促進の取り組みとともに、労働者の権利や労働法制など、学校教育のなかで学ぶ仕組みが必要ではないでしょうか。

 

残念なのは、徳島県、徳島市が後援しているシンポジウムにもかかわらず、県も市も担当課の職員の参加がなかったことです。行政の本気度が問われているのではないでしょうか。

閉会の挨拶に立つ、掘金弁護士(働くもののいのちと健康を守る徳島県センター理事長)