10月24日の県議会閉会日での、県議団の意見書に対する反対討論を掲載します。
◆ 議第4号「参議院選挙における合区の解消と憲法についての国民的議論の喚起を求める意見書」に対する反対討論
2016年10月24日 上村恭子
私は、日本共産党を代表して、議第4号、「参議院選挙における合区の解消と憲法についての国民的議論の喚起を求める意見書」に反対の立場で討論いたします。
本意見書案は、参議院選挙の合区解消と現行憲法の改正についての議論を促進することを求めるという2つの論点を含むものとなっています。
特に、憲法改正について述べられている内容は、わが党として、看過できない重要なものを多く含んでいるので、丁寧に意見を述べたいと思います。
よって、少し長い討論となりますが、ご容赦願います。
まず、1つ目の、参議院選挙の合区解消について述べます。
問題とされている「合区」は、昨年7月に成立した改正公職選挙法によるもので、1票の格差を是正するために、先の参議院選挙で、徳島・高知、鳥取・島根において憲政史上初の合区による選挙が実施されたものです。
しかし、合区をつくってまで行った選挙にもかかわらず、一票の格差が3.0倍以上あったとして、相次いで訴訟が起きました。
これは、昨年7月の公職選挙法の改正が、抜本改正ではなく、当面の格差を3倍におさめるための単なる数合わせを行ったにすぎなかったからです。
合区をつくって数合わせした結果、都道府県単位の選挙区を基本的に維持しながら、人口の少ない県と隣接する県には適用しないという矛盾から生まれる制度上の不公正を生むという重大な問題が起こりました。
議員定数を現状のまま維持するとしても、人口変動の予測を見れば、今後も新たな合区が必要となり、合区された県と合区でない県との不平等感は一層顕著になっていくものと考えられます。
意見書では、「投票率の低下」や「選挙区において自県を代表する議員が出せないことなど、合区を起因とした弊害が顕在化」しているなどの問題を指摘していますが、この点は全く同感です。
「合区解消を求める声が大きなものとなっている」として、国に対し、次期参議院選挙までに合区の解消を行うよう求めることは当然です。
改正公職選挙法の付則では、2019年の参院選に向け、選挙制度の抜本的見直しについて検討を行い、必ず結論を得ると明記されています。
この付則に従い、投票価値の平等という憲法上の要請にこたえる抜本改正こそ、求められるべきです。
意見書案では、「多様な地方の意見を、国政の中でしっかりと反映させる必要がある」としています。この点は同感ですが、「抜本的な解決には、参議院の在り方について、都道府県の代表としての役割を憲法に規定するなど、衆議院と差別化を図る議論を行う必要がある」としている点については、同意できません。
そもそも、法の下の平等は憲法の大原則で、基本的人権に係る基本的命題です。
その下で、憲法第43条を改定し、仮に、参議院を地方代表として一票の格差を是認するなら、現憲法で規定する「全国民の代表」としての衆議院とは異なる権能の制限がされることとなります。さらに、憲法第92条は、「地方公共団体の組織および運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」としており、憲法は直ちに都道府県を規定しておらず、新たな規定を行うことは、日本の地方自治、統治機構全体に関わる大きな命題です。
早急に合区解消を願う県民が、こんな議論を求めているとは到底思えません。憲法改正を進めるための「ためにする」議論ではありませんか。
憲法47条には、「選挙区」は、「法律でこれを定める」としていますが、都道府県を単位とした上で、「一票の平等」の基本原則を守ろうとすれば、総定数は増やす以外にはありません。
国会議員460人分の費用に相当する年間320億円の政党助成金の一部の金額を活用すれば新たな支出をせずに、総定数を増やすことも可能です。こちらの方が国民の理解を得られるのではありませんか。
憲法では、衆議院も参議院も「全国民を代表とする」と規定されており、都道府県のような地域代表制について直接要請していません。
また、地域代表を重視するといっても、都道府県で定数2、つまり改選定数1の選挙区では、比較第一党の候補者しか議員になれません。
比較第一党の議員がその地域の民意をすべて反映しているといえるのか、地域におけるその他の民意が切り捨てられていることになるのではないでしょうか。
この欠点を補って、できるだけ多様な民意を反映させるとして比例代表制が併用されているのではありませんか。
この問題意識を基本に、抜本的な選挙制度改革案を示した例が過去にあります。
2009年9月30日最高裁大法廷判決が「現行の選挙制度の仕組みを維持する限り、各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは、最大格差の大幅な縮小を図ることは困難であり、これを行おうとすれば原告の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できない。」と判事しました。
これを受け、2010年12月、当時の西岡武雄参議院議長は、定数を242議席のままとしたうえで、都道府県単位の選挙区を廃止し、全国を9ブロックに分割した比例代表で全議員を選出するとした選挙制度改革のたたき台を提示しています。
この案は、「一票の格差」を縮小し、最小のブロックでも定数12(改選6)とし、1人区という小選挙区を無くす結果、民意の過度の集約を解消し、より民意を反映する選挙制度となり、検討に値する案です。
以上述べてきたように、合区問題解消については、現憲法の下、公職選挙法の抜本改正をはかることで解決できる問題です。
次に、2つ目の憲法改正の議論を進めることを求めている点です。この点については、全く賛同できません。
憲法改正を求める理由に、現行憲法の地方自治に関する規定がわずか4条しかないこと、地方自治の基本原則とされる地方自治の本旨についても表現が抽象的で分かりにくく、自治の侵害を防ぐための基準として不十分であるとの指摘があるとしています。
しかし、憲法92条には、「地方公共団体の組織及び運営」が「地方自治の本旨」に基づくことを明確に現しています。地方自治の本旨とは、地方政治は住民みずから決めるという「住民自治」、住民は国などの圧迫をうけない独立した機関をもつという「団体自治」を核心とする政治原理であり、抽象的でわかりにくいという指摘は当たりません。
また、この政治原理からすれば、地方自治を侵害するような事象があれば、それこそ憲法違反ではありませんか。仮に自治の侵害を防ぐための基準を明確にするというなら、地方自治法に盛り込めば済むことです。
本来、住民の自発的合意に基づくべき合併を、強権的な行政指導や「合併特例債」などの財政誘導で迫り、期限も示すなどして強引に推し進めるなど、地方自治の本旨をまっこうから踏みにじってきた自民党政権の政治こそ問題にすべきです。
さらに、憲法が70年間一度も改正されていないため、人口減少や地球規模での環境問題、大規模災害、日本を取り巻く外交安全保障情勢の変化など、様々な面で現実との間に乖離や矛盾を生んでいるとしていますが、人口減少や地球規模での環境問題などは、個人の尊重と幸福追求権をうたった憲法13条、生存権を定めた25条などで十分対応できるものです。
例えば、「環境権」は国民が公害闘争などで、勝ち取ってきたもので、憲法にその規定がなかったことが問題ではなく、国民の生存権、幸福追求権よりも企業の利潤追求権を優先して環境を守る施策を怠ってきた行政の責任こそ問われます。
日本国憲法は、①国民主権と国家主権、②基本的人権の保障、③平和主義 ④地方自治など、民主主義国家の大原則を備えていて、時代の変化に耐えうる 普遍性に富んだ内容をもっています。
「様々な面で現実との間に乖離や矛盾を生んでいる」のは、憲法が時代の要請に応えられなくなっているからではなく、憲法を守り生かす政治が行われていないからではありませんか。
今、求められていることは、憲法改正の論議を進めることなどではなく、政治のあらゆる分野に本当に現憲法が生かされているのかの検証です。
この問題が最もするどく問われているのが、安全保障関連法、いわゆる「戦争法」の問題です。
安倍政権は、外交安全保障情勢の変化を理由に、戦争放棄を謳った憲法をないがしろにして、昨年、「安全保障関連法」を強行可決しましたが、平和と立憲主義を求める国民の批判の高まりのもとで、発動さえできない状態になっていることは、その証拠です。
安倍首相は、参議院選挙中は、憲法改正については一言も語らなかったのに、参議院選挙で改憲勢力が衆参とも3分の2を超えたことで、今国会中に憲法改正に踏み出す姿勢を強めています。
しかも、立憲主義憲法でなく、国民にさまざまな義務を押し付ける封建主義憲法だと厳しく批判されている自民党の憲法草案を、憲法審査会でのたたき台にすることはあきらめても、憲法草案自体は撤回していません。
国民は、このような政権の元での憲法改正に不安と危機感を強めています。
憲法改正をめぐる情勢が緊迫している中で、合区問題解消を入り口に、安倍政権が狙う憲法改正への後押しをするような意見書は出すべきではありません。
よって、本意見書には賛同できません。
議員各位の冷静な判断をお願いして、討論を終わります。